「銀魂」で近藤さん&あの人の2次創作SSを頂きました!☆(≧▽≦)☆! 【お人よし】


〇月〇日はあの人の誕生日!☆(≧▽≦)☆!

というわけで、誕生日前に送っていただいてたんですが、夏ばてやらやる気がおきなくてぐだぐだしてたらすっかり誕生日が過ぎてしまい。っていうか、そうだ!パソコンがフリーズしてばっかでふてくされてたんだった!( ̄□ ̄;)!! ←ぇー

っていう言い訳をかましたところで、近藤さんの誕生日は9月4日なので、ちょうど間をとった真ん中バースデー(正確には真ん中じゃないけど)SSってことでいいんじゃないかと、ポジティブに考えてみた!( ̄‥ ̄)フンッ ←ぽっぽさん、すみませんm(_ _)m


というわけで、ぽっぽさんが近藤さんとあの人のSSを送ってくださいました!
わーい、お久しぶりでーす☆

ちなみに、あの人、あの人とわざとらしく伏字にしてますが、あの人はあの人です。
めっさかっこいいです。
っつか、近藤さんって、誰からも好かれるんだなって、近藤さんのかっこよさにも痺れるSSです♪





【お人好し】


真夏の、咽返るような日差しが額を刺すように焦がした。真っ黒な隊服を通して伝わる熱気は更に内側から体を燃やすようで、近藤は体中から滝のような汗を垂れ流し、それが彼の足跡となって転々と道に染みを作っては、すぐに消えた。
もうすぐ夕刻だというのに、どうにもこうにも暑くてならない。このままでは太陽が沈む前に自分の意識が沈んでしまうと、カラカラになった喉を押さえながら休める場所を探して彷徨うも、何処も彼処も、地面までもが太陽の光を反射して総攻撃をかけてきていた。建物の中には入れない。きっと一度入ったが最後、二度と出られなくなるからだ。近藤の頭の中に、故郷の涼しげな山並みと川の清流が思い起こされた。こんな日は皆で川に出掛けて水浴びをした後、木陰で西瓜を切って食べたものだ。
何だってこの街はこんなに木が少ないのだろうと、フラフラになって歩く近藤の目の先に、一人の男が座っていた。ある茶屋の店先の長椅子、野点傘の下。屋外であるにも関わらず何故か其処だけやけに涼しげに見えて、近藤は吸い寄せられるように近づいた。近づくに連れ男はどうやら近藤の接近に気付いたようで、訝しげな目線を寄越した。遠目には少し明るい色くらいにしか思わなかった着物には、素人目にも見事と言うべき繊細で鮮やかな刺繍が施されていて、それを嫌味無く着こなすその男は雅な色男ではあったものの、眼光は鋭く、一目でカタギでは無いことが分かった。
「ここ、いいか?」
長椅子の余白を指差して近藤が尋ねるも、男は何も言わなかった。近藤は少し躊躇ったもののこれ以上日向にいるのも限界で、倒れるように座り込んだ。近藤に気付いたのか中から出てきた茶屋の店主に氷菓子を一つ注文すると、主人は再び店の中に姿を消した。戸が開いた瞬間に外へ溢れ出した冷気を無意識に追って振り返ったが、明る過ぎる日差しに慣れた目に店内はまるで、真っ暗な洞窟のようだった。
店主が持ってきてくれた氷入りの水で喉を潤しながら、戸口で揺れる風鈴の音と木陰と共に見上げる太陽は、先程まで憎々しげに思っていたのが嘘のように、真夏の空を明るく彩っていた。
「いや~・・・あっついなぁ!」
何だか満たされたような気分で、小さな幸せを噛み締めながら隣の男にそう言うと、男はどうやら話しかけられるものとは予想だにしていなかったようで、自分以外の人間がいないかぐるりと辺りを見回した後でようやく、
「んな厚着してっからだろ」
と、ぶっきら棒な返事を寄越した。とても低い声だった。
しかし指摘されて見ると確かに近藤の服は何枚も重ねている上に真っ黒で、反対に男はその薄手の着流し以外何も着ていない様子であり、汗を掻く気配すら無かった。それを受けて、少しくらいなら構わないかと近藤は仕事着であるその服を脱ぎ始めた。上着だのスカーフだのを外している時はやはり同じ様に黙っているだけだった男だったが、近藤が下半身の衣服まで脱ぎ去ったのを見ると思わず、
「お前何してる」
と、驚き混じりといった様子で問うた。
「いやもう何か暑いし、いいかなって思って」
近藤はそのガタイの良い筋肉質の体に褌一丁という井出達で、首から取り去ったスカーフを手拭のように振り回して自身の身体に風を送っては再び長椅子に腰を下ろし、男に向かって豪快に笑いかけた。男はその顔面に浮かんだ嫌悪感を隠そうとすらせず、肩を叩こうとした近藤の手をすり抜けるように避け、その所為で近藤は横につんのめり転びそうになった。つい馴れ馴れしくしてしまったもののここは江戸、初対面では余り馴れ合わないものなのかもしれない、少なくともこの男はそういうのが苦手なのかもしれない、そう思った近藤は特にそれ以上不信感を募らせることもなく、どしりと座り直して腕を組む。
「江戸の街は未だに慣れないな。俺なんかすぐに迷っちまって」
「何勘違いしてんだか知らねェが、俺ァ余所者だ」
「そうだったのか?垢抜けて見えるから、てっきり江戸っ子かと思ったよ」
そう言った近藤の視線の端に、ふっと刀が映った。近藤は思わず身を乗り出して、男の体の向こう側に置いてあった刀をまじまじと眺めれば、鍔の無い直刀という余り一般的とはいえない代物で、うっかりその刀に手を伸ばそうとしてしまった。
男は瞬時に刀を掴み長椅子を片足で踏み締め、その顔の横で抜刀する体勢になるまでの一連の動きの早さは驚嘆すべき程で、抜きこそしなかったものの恐ろしい気迫と殺気でもって近藤を睨んでいた。
「す、すまん・・・珍しかったもので、つい・・・」
刀とは武士の魂だと言うでは無いか。それを軽々しく振れられるのを嫌がったとしても当然の反応だろうと、近藤は心の中で深く反省して、すぐに謝罪した。男はそれでも暫くの間警戒を解こうとはしなかったが、やがて何事も無かったかのように、座りなおした。
見たところ男は金に困っているという様子は微塵も感じられぬ上に、白昼堂々とこんな目立つ場所に座り込んで帯刀している所を見ると、どうやら追われる身では無さそうだ。雰囲気を見るとさしずめやくざ者の用心棒とでもいった所だろうかと、環境は違えど剣を生業として生きるその様に近藤はひどく共感を覚えた。
「じゃぁアンタも俺と同じか!」
益々陽気にそう言葉を吐いた近藤を前に男が困惑したように眉を顰めていると、近藤は自分自身の刀を手に持ち上げる。
「俺もコイツで一旗挙げようと思ってなぁ!故郷の仲間と一緒に、少し前に上京してきたんだ」
「こんなご時勢に随分とまぁ、時代遅れだな。」
皮肉たっぷりにそう言った男に近藤は大笑いして、男の刀を指指した。
「そういうアンタも剣持ってるじゃねぇか。それも、相当な実力者と見た!」
「そりゃどうも。」
如何にもどうでもよさげに返事を寄越した男は疲れたように溜息をついて席を立ち、近藤が止める間もなく流れるように外へと出たものの、ほんの数歩歩いた先の陽だまりで立ち止まったかと思うとすぐにこちらへ戻ってきて、再び近藤の隣に腰を下ろした。
近藤がどうしたのかと尋ねる前に男は小さく
「あっちィ・・・」
と独り言を呟いて、近藤は耐え切れずに再び大きな声で豪快に笑った。男が下から睨んできたものの最早それもただの愛嬌といった風にしか受け取れず、腿を叩いて笑っていた。
「アンタ、いつからここにいるんだ?」
「さぁな」
「中には入らないのか?」
「中は寒い」
確かに店の中は一瞬扉が空くだけで届く冷気がとても気持ちがいいくらいで、そういえばこの茶屋の主人も夏場にしては随分と温かそうな格好をしていたなと、今更ながらに思い出し、ということはつまり何だ。この男は優雅にお茶してるように見えてその実、寒さから店の中で休むことも出来ず、且つ暑さから一歩も動けなくなっていただけなのかと思うといよいよ可笑しくて、まぁ人の外見とは当てにならないものだと、近藤は涙が出るほど笑い転げた。
ふと、また男に睨まれているような気がしてそちらを見やったが、男の目線は近藤では無く、近藤が脱いで几帳面に畳んだ隊服とその上に置かれた刀に注がれているようだった。その目は先程の殺気とも違い苛立ちとも違い、清んだものではなかったが、濁りもなかった。何か、ほんの小さな興味の中にいるようで、それでいて何も考えていなさそうな、掴み所の無い表情をしていた。
「見た事ない制服だろ?『真選組』って、出来たてほやほやの組織だ」
男はそれに返事をすることはなかったが、目線だけで何度かその隊服と近藤を見比べると、近藤の体を上から下まで、より一掃長く疑惑の念を強くしながら眺めやった後、再び黙り込んだ。近藤は一体どうしたのかと不思議に思っていた所に一つの可能性を思いつくも、
「お前もしかして入りた・・・」
「んな訳あるか」
と、聞き終えるよりも先に一蹴されて、しょんぼりと項垂れた。まだ地位も知名度も何も無い少数の小さな部隊、何故かは分からないが、この男がいたらさぞかし心強いのではないかという考えが後からやってきて、そしてまたその完全なる拒否反応に落ち込んだ。

そんな近藤の隣で男は更に大きく膨らむ疑念を抑えられずにいた。てっきり初めのうちは自分を捕らえに来た誰か、もしくは自分が攘夷志士かどうかの探りを入れに来た役人かと思ったのに、それらは全て只の杞憂に過ぎなかったというのだろうか。だがしかし、隣のこの男が演技をしているとも思えない。そういう類のことを見抜く事に関しては、自信がある。・・・だからこそ分からない。
「お前さん何だって今更幕府なんぞに入った?」
わざわざ故郷を捨てて、上京してまで。
まだ若い男盛りのこの男が生まれる以前に、既に「売国奴」、「天人の傀儡」と蔑まれる存在に姿を変えていた事を知らなかった筈はあるまい。与えられた狗としての、いつでも代えのきく駒としての役割を喜んで引き受けるということがあるとすれば、そこに求めるのは只の保身、出世、名誉といったものに過ぎない筈なのに、この誇らしげな笑顔は一体どういう事なのだろうか。
「他に行く所が無くてな」
その返答は男にとって余りにも浅はかで、考え無しで、そして馬鹿げたものだった。
「俺達ゃ田舎モンだし、侍雇ってくれる所なんて他にねぇ。でも俺達には剣を振るうしか脳が無ェもんでな」
そう笑って誇らしげに刀を手にした近藤に、男は更に問う。
「お前、人殺しになりたいのか?」
刀を手に近藤は少しの間絶句した後、信じられないといった様子で大袈裟に手を振りながら叫んだ。
「何言ってんの!?そんな訳無いじゃん!!」
「ならお前さんそのナマクラでどうするつもりだ?」
「失礼な!ちゃんと手入れしてますぅ!」
「そういう事言ってんじゃなくてよ・・・」
憤慨した近藤は刀を鞘からずるりと抜き出して、太陽の光に反射して眩しく輝く美しい刀身を抜き出した。新しく刃こぼれも何も無い、一度たりとも人の血を吸ったことが無い事を如実に物語る刀身だった。
「仕事は差し詰め・・・残党狩りってところか」
「確かに対攘夷志士を相手にすることは多くなるだろうが・・・まぁ警察みたいなものか」
内部の人間に会うのは初めてではあったが、男は新設されたこの組織の事を知っていた。名目上は江戸の治安維持を目的としたものだが、実態は幕府に敵対する反乱分子を根絶やしにせんとする上層部の思惑から生まれたものだという事は、火を見るより明らかだった。
「要は人斬り集団だろ?」
「人聞きの悪い事言わないでくれる!?」
「じゃ、斬らねェのか?」
近藤は言葉に詰まった。
「斬るんだろ、そいつで」
そう言った男の目は驚く程静かで、冷徹で、哀しみに満ちていた。

「・・・人を殺すだけが、剣じゃない」
「人を斬る為に作られたのが、剣だ」
近藤が刀を鞘に納めようとした時不意に差し出された男の指先は、ほんの少しだけ刀の刃に触っただけだった。それでも、その指はさっくりと斬れて、傷口からはさらさらと血の筋が流れ出た。近藤は驚いて慌てて刀を引っ込めたが、男は無感情に自分の指を眺めるだけだった。
「ナマクラなんて言って悪かった。これならちゃんと殺せるな」
そう言って、空になった器に残った氷を一つ摘んで指先に押し当てた男を前に、近藤は手拭で刀についた僅かな血糊をふき取ってから、今度こそ刀を最後まで鞘に押し込め、口を噤んだ。
相変わらずのかんかん照りに、日陰の外の世界が歪んで見えた。考えが上手くまとまらず、それが暑さの所為なのか何なのかよく分からなくて、近藤の目に日差しの後に見る隣の男はまるで、全身が黒い影の塊みたいに見えた。
「お前、攘夷志士ってのがどんな連中か、分かってんのか?」
前屈みに座っていた近藤を見下ろすように、その影は口を開いた。
「全てを失い全てを捨て、背には仲間の屍累々・・・それでもまだ、戦わずにはいられない奴らさ。一旗挙げるだァ、そんな薄っぺらい理由で侍気取ったところで、奴らに生首持ってかれるだけだぜ・・・お前らの上司がやったようになァ」
男は口元に嘲るような笑いを浮かべながら、それでいてその瞳の奥にとてつもなく大きな憎悪がほんの一瞬姿を見せて、近藤の背中に一筋の悪寒が走った。それと同時に、近藤は本能的に理解した。この男を敵と思った訳では無い、ただ、これから自分が敵にする事になるのは、こういう瞳なのだと。
「・・・人を斬る覚悟なら出来てる」
「へぇ?」
搾り出すような近藤の言葉に男は肩をすくめ、小馬鹿にしたような表情をした。
「だが、無闇に殺すつもりは無い。たとえこの先、誰かを手に掛けるとしても・・・」
近藤がその態度に少々腹を立てながら続けると、男は嘲るように鼻を鳴らした。
「『たとえ』、ねぇ」
「・・・手に掛けることになっても、俺はお天道様に顔向け出来ないような事をするつもりは無い」
「自分だけは悪くないって?流石、幕府の人間は言うことが違う」
何も知らない人間が今、偶然にここを通りかかったとしたら、近藤の方が何かさぞ愉快な冗談でも言ってのけたのだと思っただろう。真顔の近藤に対して男の方は、それはそれは楽しそうに、手を叩いて笑っていた。近藤はどうにも遣る瀬無い敗北感と悔しさに襲われながらも、それ以上何を言ったらいいのか分からず、横で相も変わらず腹を抱えて、今にも涙を零しそうになる程に笑っている男をただ、見つめているだけだった。

やがて、何かの糸が切れたように、プツンと男は元の静かな表情に戻った。男は暫くの間遠くを見つめていたかと思うと一つ小さな溜息をついて、近藤の方に向き直った。
「なァお前、やめておけ。お前にゃ向いてねェ。あんな所にお前の居場所なんざありゃしねェ」
まるで長年連れ添った親友を前にしたような、敬意は無くとも、深い同情の念が篭った声だった。何故かは分からないが、近藤は体から一気に緊張が抜けていくのが分かった。
「・・・居場所ってのは自分で作るもんだろ」
「それが分かってるなら、何故幕府に拘る?」
自分の声も優しければ、男の声も穏やかだった。近藤は自分自身がこの男に対して、初め以上に気を許していっているのを感じた。
「とっつぁんが俺達を拾ってくれたのさ。これも巡り合せだし、俺は人との縁っていうものを大事にしたくてな。何より、とっつぁんに恩も返したい。・・・あぁ、とっつぁんっていうのは長官の事な」
男の目に、にかっと爽やかに笑った近藤は余りにも純粋で優しくて、善意に塗れた人間だった。若さを理由にしても、自分とそう変わらないか、もっと上かもしれない年齢に加えてこんな時代。こんな人間がいるものかと、不思議に思った程だった。
「・・・松平か」
「知ってるのか」
「有名人だからな。・・・ちなみに良い噂は聞かねェ」
「確かにとっつぁんは見た目こそ悪人だが、中味はただの、気のいいおっさんさ」
「幕府なんて組織に善人がいるだなんて思わねェこった」
「そんな事は無いさ」
「あるね。幾らこの世界そのものが救いようのないものだと言っても、あいつ等程じゃぁ無ェだろうよ」
だからこそ、男の目に近藤は余りにも愚かに映った。その善意故に自分に向けられた悪意まで見落としてしまったら、それは間抜け以外の何でも無い。

その時、店の主人が中から出てきて、食べ終わった近藤の皿を無言でさげた。その後ろ姿を呼び止めて近藤が飲み物を注文すると、店主は酷く怪訝な顔をして近藤を一瞥した後、ぶっきら棒に返事をして店の中へと戻っていった。そしてまたすぐに出てくると、氷入りの飲料水を乱暴に置き、その所為で隣に畳んであった近藤の衣服の上に、中味が少し零れた。近藤は憤慨して店主を呼び止めようとしたものの、一瞬で店の中に消えてしまった店主をわざわざ呼び戻すほどの事でも無いかと思い、湯のみに残った分をぐい、と飲んだ。
「確かに、アンタの言う通りなのかもしれないな」
近藤は少し疲れた様子で溜息をつくと、そう言った。
「この仕事はまだ始めたばかりだが、何処へ行っても俺達は嫌われ者だ。驚いたよ、幕府の人間ってだけで俺達に石を投げる奴らはいても、笑いかけてくれる奴らなんて一人もいねぇんだ。・・・今みたいのも、もう慣れてきちまった」
男は聞いているのかいないのか、何も答えず相槌を打つ事も無く、ただ黙っていた。
「でも別にいいんだ。俺は俺の我を通す、それだけだ。それに、どれだけ酷い組織だったとしても、中にいる人間まで腐っちまったら本当に腐っちまうだろ」
「『腐っちまう』んじゃねぇ、腐ってんだよもう。手遅れだ」
近藤は男の横顔を見た。穏やかだった表情に再び怒りがまた少し現れたような気がして、戸惑った。邪推かとは思ったものの、聞かずにはいられなくて、つい口を開いてしまった。
「アンタ、どうしてそんなに幕府を嫌う?何かされたのか?」
「何かされてない奴ってのは内部の人間か、世の流れから外れたド田舎の原始人だけさ・・・誰かさんみたいにな」
はぐらかされた上にさり気なく罵倒され、近藤は少しムッとしたものの、決まって怒りの後に現れる男の哀愁を帯びた雰囲気と、何処か諦めたような表情の方が気になって、すぐに忘れてしまった。

「なぁアンタ、一つ聞きたいんだが、良いところしか無い人間って・・・いると思うか?」
この突拍子も無い質問に男は眉を顰めて近藤を見やったが、ただの好奇心だとでも言うように近藤が肩をすくめてみせたので、心底どうでもよさげに、
「いねェな」
と短く答えた。
「同感だ」
近藤は相槌を打つように何度か頷くと、飲み物を再び口に運んでから、言う。
「でももしそうなら、悪いところしかない人間もいない、と俺は思うんだよ」
男は近藤に顔を向けた。建前でも何でも無く、心底そう思っているのだということが、人間の本質に潜む希望を信じて疑っていない人間だということが、男にはよく分かった。
「それに過去がどうあれ、結局は人の集まりさ。組織だって変わることは出来る。・・・だから俺は、幕府にいる」
近藤は更にそう続けた。残念ながら近藤には、男が自分の言葉に何を思っているかを見抜くことは出来なかった。だが少なくとも、自分の考え方に対して、納得とまではいかなくても理解を示してくれたように思えた。嘲るでもなく、馬鹿にするでもなく、不意に、零れたように、男の顔に自然な笑みが浮かんだ所為だった。

「とんだお人好しがいたもんだ」
男は自分の耳にも届かないくらいの、小さな独り言を呟いた。
「ん?何だって?」
「いや・・・お前は優しいんだな、と思っただけだ」
聞き返してきた近藤に、男は素直に、思った通りにそう答えた。
「えぇ、そうかあ?それ程でも」
「あぁ、呆れて物も言えねェよ」
何が嬉しかったのか、照れくさそうに笑いながら後ろ頭を掻く近藤に、男はやはり素直に、思った通りにそう答えた。
「ねぇ、それ褒めてんの?けなしてんの?」
「けなしてんだよ」
「ソウデシタカ・・・」
男の答えに近藤はバツが悪そうにしながら、少しだけ項垂れていた。そんな近藤を横目に男は席を立ち自身の剣を腰に挿すと、懐から煙管を取り出して火を灯し、一服した。
「ま、せいぜい死なねぇこった。親父、御代」
高杉が立ち上がったのに気付いて奥から出てきた店主の手に、高杉は無造作に金をやると、主人が勘定を確認し終える前に帰り支度を始めてしまった。近藤がふと上を見上げれば空は橙色に染まり始めていて、日差しは大分弱まってきていた。それでも男は頭に傘を被って、更に日射量を軽減していた。

日が沈み始めると夜が来るのはあっと言う間だと、近藤はそろそろ畳んであった衣服を着ようと自分自身も立ち上がる。しかしふと目をやると男は近藤を待つ気配も無くそのまま何処かへと行ってしまいそうで、慌てて衣服を手に抱えたまま男の背中に駆け寄る。
「あああ、ちょ、ちょっと待って待って!俺近藤っていうんだ!近藤勲!アンタ、名前は?」
「何で幕吏相手に名乗らにゃならねェんだ」
「ここでそういう事言う!?いいじゃん名前くらい!!」
「俺ァお前と違って性格が悪くてね」
うるさい奴だと思いながら、男は肩を掴んだ近藤の手を嫌そうに払いのけてそう言った。これ以上何か言われる前にとっとと行ってしまおうとしたが、側で聞こえた言葉に思わず立ち止まって振り向いてしまった。
「何言ってんだ、アンタ良い奴じゃねェか」
キョトンとした顔でそう言った長身の近藤を幾分か見上げるようにして、男は眉を顰めた。驚きと困惑が入り混じった、呆然とでもいうべき表情だった。
「御代、俺の分も払ってくれただろ」
爽やかに笑ってそう続けた近藤に、男は深い、深い、溜息をついた。近藤が店を出た時、店主は近藤に何も言っていなかった。それで気付いたのか、それとも払っている時点で既に気付いていたのか。
「・・・どうでもいいこと見てんな」
「どうでもよくないさ。それにアンタ幕府を嫌ってる風なのに初対面の、それも内部の人間である俺に忠告までしてくれたしなァ。アンタは間違いなく良い奴だよ」
「・・・ここまでくると寧ろ清々しいな」
この出会いがまるで宝物であったかのように、無邪気に、心底嬉しそうにする近藤を前に男はやはり呆れる気持ちを抑えられなかった。自分から得るべき情報はもっと他にあっただろうと、人事ながら思わずにはいられなかった。最終的にそういう結論にいき着く所がその性格の所以なのだろうが、それにしたって馬鹿過ぎる。
「・・・だが。嫌いじゃねェよ」
近藤の耳にふと、男がそう言った声が届いた。
「そういう馬鹿は、嫌いじゃない」
刀と衣服を脇に抱えながら褌一丁で道端に仁王立ちする近藤の様も、幾分か笑いを誘う光景ではあったが、それとは別の理由で、男は緩やかに微笑んだその表情を傘の下に隠し、近藤の肩を一度ポン、と叩くとそのまま背を向けて歩き出した。
「・・・ああッ、ちょっ、だから!名前ェ!!」
思わず少しの間立ち尽くしてしまった近藤はふと我に返ると再びその後ろ姿に呼びかけたが、男は煙管を持っていたのと反対側の手を顔の横でひらひらとさせただけで、そのまま振り返る事は無かった。
「またなぁ!!!!」
代わりに近藤は声を張り上げ見える筈も無いのに両手を大きく振って男に別れを告げた後、一つ、盛大に大きなくしゃみをした。


(嫌でも会うだろうさ)
あの近藤とか言う男が言ったように自分も自分の我を通すなら、いずれ自分は奴の標的になるだろう。今はまだ名ばかりの組織だが、もしかしたら後々、少し邪魔っ気な事になるかもしれない。太陽の沈む方角へと歩を進めながら、男はそう考えた。
(真選組ねェ・・・)
男は少し息を吹き込むようにして、消えかけた火種から最後の一服を引き出した。
「覚えておくか」




【完】



というわけで、「あの人」の正体は、高杉さん でしたー!☆(≧▽≦)☆!

いやもう高杉さんかっこいいし、近藤さんかっこいいし、こんなかっこいいSSが書けるぽっぽさんがごっさかっこいいし!o(>ロ<o) (o>ロ<)oバタバタo(>ロ<o) (o>ロ<)o ←落ち着け

「近藤さんが真選組作った理由と、単に2人に出会って欲しいという、桂さんほどじゃなくても大将同士結構仲良くなれるのではないかという願望が混じった結果のSSになりました。」

とのことですが、近藤さんは男性相手だと誰が相手でも完勝の気がします。
近藤さんを嫌える人って、そうそういないんじゃないかなー。女性には嫌われても(ぇ
あ、でも、さっちゃんとはストーカー同士、九ちゃんとは姉上ラブ同市ですっかり仲良し(だと勝手に思ってる)ですが、そこはそれ。

あいかわらずぽっぽさんのSSは銀魂の世界観もキャラも壊さず、それでいて独特のムードとか色気とかがあってドキドキしっぱなしです♪

ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!

あ、それと、華陀さん・・・・・・ぶっちゃけ、挑戦しようと思って撃沈して、たまちゃんになっちゃったりもしたんですが(←(゚∇^*) テヘ♪)、が、頑張れたら頑張ります・・・・・っつか、頑張れ自分!



ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】


      
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Author:かずは
広島在住。
ジャンプ感想とか銀魂とかお絵かきとか特撮とかニャンコとかポケモンとか日常とか。

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